← Portfolio に戻る 実録シリーズ 第1回 / 全6回
AIエージェントと運営する個人事業PMO

第二の脳をやめて、「事業部」を作った

複数の個人事業を、自分を CEO・AIエージェントを執行担当に見立てた仮想の組織として運営しています。 その仕組みをどう設計し、どう運用しているかを全6回で書きます。第1回は、そもそもなぜこの形になったのかについて。

最初に試したのは Obsidian だった。

Udemy の講座で見た構成をそのまま真似た。Obsidian に第二の脳としてのデータ保管庫を作り、Cursor を窓口にして AI がその Markdown を読む。AI が自分の蓄積を参照しながら、コンテンツを次々に生産していく。絵としては完璧だった。

そのうち、手が止まった。

うまくいかなかった理由は3つある。どれも自分だけの話ではないと思う。

1つ目。書いても読み返さなかった。 ノートは増えていくのに、何かを決めるときにそれを開くことがない。書いた瞬間が満足のピークで、あとは触らないファイルが積み上がっていく。

2つ目。AI に保管庫全体を扱わせようとすると、出力が浅くなった。 関連しそうなノートを片っ端から渡せば賢い答えが返ってくると期待していたが、実際は渡す情報が増えるほど、返ってくる答えは無難で当たり障りのないものになった。

3つ目。整理そのものが目的になった。 タグの粒度、フォルダ構成、ノート同士のリンクの張り方。整えている間は前に進んでいる感覚があるのに、成果物は1つも増えていない。

3つはバラバラに見えて、根は同じだった。溜めた知識に、使う人がいなかった。

保管庫は「あとで役に立つかもしれない」を前提に作られている。その「あとで」を具体的に決めていなかったので、知識はいつまでも待機したままだった。

転機は設計ではなく、日常だった

第二の脳をあきらめたあとも、Cursor は使い続けていた。仕事でも、個人の作業でも、毎日触っていた。

そうしているうちに、ノウハウが勝手に溜まっていった。第二の脳を作ろうとしていたときは、あれほど書けなかったのに。

違いは動機だった。保管のために書いたのではなく、目の前の作業を片づけるために書いたものが、結果として残っただけだ。手を動かした副産物のほうが、体系立てて書こうとしたノートより明らかに使えた。

順番が逆だったのだと思う。器を先に作って中身が集まるのを待つのではなく、中身が先にあって、それを入れる器を後から作ればよかった。

「事業部」という箱

そこで、知識の体系を作るのをやめた。代わりに事業部を作った。

自分が抱えている関心を、いくつかの部門に切った。お金まわりの管理、コンテンツ制作、SNS運用、転職活動、家庭の用事、事務処理。収益が出るものも、当面出ないものも、同じ形式の箱に入れた。ライフワークとして続けている創作も、ひとつの部門にした。

各部門には同じ4つを持たせた。ロードマップ、バックログ、今週のスプリント、作業ログ。それだけだ。

これで知識の置き場所の意味が変わった。ノートは「いつか役立つ情報」ではなく、特定の部門の、特定のタスクに紐づいた判断材料になった。箱は知識に2つのものを与える。宛先と、次の一手だ。

効果としては、副次的なもののほうが大きかった。関心がバラバラでも、同じ運用に載っていれば並列に進められる。今週はコンテンツを進めて創作は止める、という判断が、罪悪感ではなく単なる優先度の問題になった。

それでも消えたもの

箱を作れば解決、とはいかなかった。

AI との対話の中で決めたことが、翌日には取り出せなくなる。会話は長く、判断はその中に埋もれている。「なぜこの方針にしたのか」を思い出せず、同じ議論を最初からやり直したことが何度もあった。

これは第二の脳のときの1つ目の失敗と、同じ構造だ。置き場所を変えただけでは直らなかった。 知識を溜める先を Obsidian から部門ファイルに移しても、判断が会話の中に留まっている限り、次の日には消える。

ここから「AI の記憶に状態を持たせない」という設計に行き着くのだが、それは次回に書く。

個人と会社は、同じ形で壊れる

出来上がったものを眺めていて気づいたことがある。一人で複数のことを抱えたときに起きる破綻は、小さな会社で起きる破綻と同じ形をしている。

一人で起きること会社で言えば
やることが多すぎて優先順位が決まらないPMO不在
決めたことが会話に埋もれて翌日消える議事録・引き継ぎ不在
「あの件どうなった」が追えない経緯の追跡不能
ルールを自分の記憶で守れない統制不在
進捗が頭の中にしかない可視化・報告不在

同型なら、対処法も同じでいい。会社が使っている仕組みを、規模だけ小さくして持ち込めばいい。そう考えて、自分を CEO、AI エージェントを執行担当に見立てた仮想の組織として個人事業を運営する形に落ち着いた。

現在地

構想自体はもっと前からあったが、形になったのは直近4ヶ月ほどだ。管理リポジトリの初回コミットは2026年4月26日で、2026年7月末時点で777コミット。

まだ完成していないし、たぶん完成しない。ただ、Obsidian を前にして「これは何のために書いているのだろう」と手が止まったあの状態には、戻っていない。

NEXT — 第2回
AI の記憶に依存しない記録の設計

決めたことが会話に埋もれて消える問題を、どう構造で解いたか。(準備中)